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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)1562号 判決

原告

〓井実

外二名

被告

長岡俊秋

外一名

主文

被告長岡俊秋、同平田幸夫は各自原告辻井実、同大谷成一の両名に対し金一四四、一〇〇円、原告山本益三に対し金八、七〇〇円、及びいずれも右に対する昭和三一年五月二一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告等の其余の請求は棄却する。

訴訟費用は被告等の連帯負担とする。

本判決は被告等にそれぞれ原告辻井実、同大谷成一に於ては金五〇、〇〇〇円の、原告山本益三に於ては金三、〇〇〇円の、いずれも担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

原告辻井同山本の両名が昭和三〇年三月一四日午後三時三〇分頃国道十六号線泉大津市春日町付近道路上を自動小型四輪車ルノー号で南進中、前方から北進して来た貨物自動車の後方から追越しをして来た被告平田の運転する被告長岡の営業用自動三輪貨物車に車体を接触せられる事故が発生したことについては当事者間に争いがない。

原告等は右接触事故が被告平田の業務上の過失によつて発生したものであると主張するに対し、被告等はこれを否認し、右事故の原因は原告等の側にあると主張する。此の点成立に争いのない甲第四、五号証及び原告辻井同山本の各本人尋問の結果を綜合すると右事故は被告平田が自動車運転者としては、道路の左側の進行し前方車を追越す場合には対面の交通に十分なる注意を払ひ、安全に追越しできるかどうかを確認した後に追越しにかかり、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにかかわらず不注意にもこれを怠つて反対方向から進行して来つつある前記ルノー号を確認せず慢然と先行の貨物自動車の右側に出て道路右側を進行して追越しをしようとしたことによつて発生したものであることが認められる。そして右事故につき原告側に過失があるとする被告平田本人の供述は前記の各証拠と対比して信用できなく、他に原告等の過失を認めるに足る証拠がないから、右事故は被告平田の前記認定の過失のみによつて起きたものといわなければならない。

原告辻井同山本各本人の尋問の結果によると前記ルノー号は原告辻井同大谷の共有にかかり、右事故によつて右前部ドア等に破損を受けたものであることが認められ、原告山本本人尋問の結果によつて成立を認められる甲第一号証及び前記甲第四号証によると原告山本が右事故によつて頭部頸部等に全治約十日間を要する挫傷を受けたことが認められる。

被告平田が被告長岡の被用者であることについては当事者間に争なく、被告平田が被告長岡の事業の執行中前記事故が発生したものであることは被告長岡の明らかに争わぬところである。

原告等が被告長岡は被告平田の使用者として右損害を賠償する責に任ずるものであると主張するに対し被告長岡は使用者として被告平田の選任及びその事業の監督について相当の注意をなしていたものであり、又本件損害は相当の注意をなすも生ずべかりし損害に相当するから賠償責任は免責されると主張するので此の点について判断するに、成立に争いのない甲第五号証によれば被告平田は昭和二九年七月に自動三輪車の運転免許証の下付を受け、同年九月頃から被告長岡商店に自動三輪車の運転手として雇われたものであることが認められる。右認定に反する被告長岡、同平田各本人の供述は措信できない。而して被告長岡は選任上相当の注意をなしておつたものであるとして、運転手を採用するに当つては免許証受領後六カ月以上を経過した者を選ぶこととしており被告平田は此の要件を満たした上、技術も優秀であり、事故も起したことがなかつたと述べておるが、元来自動車運転の免許証は自動車の運転に従事するについて取締法規上必要とする技術技能の最小限度の適格を有するものであることを証するに留まり、これを有することを以て選任上相当の注意をしたものであると言い得ないばかりか、前掲証拠によれば被告平田は免許証を受けて約二カ月の後に被告長岡方に雇われたものであることが認められまた被告長岡において特に被告平田の運転技術を試験した結果、優秀と認めてこれを雇い入れたものであることを認めるに足る証拠はない。被告平田が雇傭以前に事故を起したことがなかつたことは前掲甲第五号証によつて認めることができるが、雇傭前の運転資格ある期間が約二カ月であつたことに鑑みて未だこれを以て被告長岡が選任上相当の注意をなしたものであることを理由あらしめるものとは認め難い。従つて被告長岡に於て被告平田の選任上相当の注意をなしたものであるとは認められない。又被告長岡が事業の監督につき相当の注意をしたことについてはこれを認めるに足る証拠がない。

使用者が民法第七一五条第一項但書の規定による免責を受けるには、被用者の選任及びその事業の監督につき相当の注意を為したものであることを使用者に於て挙証することを必要とするから、被告長岡は右事由によつては使用者としての賠償責任を免れることは出来ないものである。

また被告長岡が被告平田の選任監督につき相当の注意をなすも本件損害が発生することを到底避けられなかつたものであることが明確であることを認めるに足る証拠はない。従つて被告長岡の抗弁はすべて理由がない。

そこで原告等が本件事故によつて蒙つた損害について判断する。証人織原正平の証言及びこれによつて成立を認めることができる甲第二号証同第三号証の一乃至三並びに原告辻井、同山本各本人尋問の結果を綜合すると、前記ルノー号が本件事故によつて蒙つた車体損傷の部位は、右前部フエンダー、前バンバー、右ドア部分、ハンドルギヤーボツクス廻り其他であつて、これが修理のため原告辻井、同大谷の両名が支出した費用の総額は、金一四四、一〇〇円であることが認められる。而して右原告両名が右修理に一カ月以上の日時を要したものであることは証人織原正平の証言によつて認めることができるが、そのために原告両名が共同経営する米穀類の卸小売業の営業上に蒙つたとする損害については、その額がいくばくであつたかを確定するに足る証拠はない。また原告山本が本件事故によつて頭部頸部等に全治約十日間の挫傷を受けたことが認められることは前述のとおりであり、原告山本本人尋問の結果によると、原告山本は一箇月金三五、〇〇〇円の給料で勤務していたものであるが、右傷害のため一二日位勤務を休んで治療したところ、勤務先からその月分の給料を八、〇〇〇円減額せられ、又右治療につき医療費として金七〇〇円を支出したことを認めることができる。右認定の事実によると原告山本は本件事故により得べかりし利益の損失として金八、〇〇〇円、及び積極的の支出として金七〇〇円、合計金八、七〇〇円の損害を蒙つたものということができる。

従つて被告平田は本件事故による損害の賠償として原告辻井同大谷の両名に対し金一四四、一〇〇円、原告山本に対し金八、七〇〇円、及びいずれもこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和三〇年五月二一日から完済まで民事法定利率年五分の割合による金員を支払う義務があり、被告長岡は被告平田の使用者として右原告等に対し右と同一内容の義務があるものであつて、以上は各別個の債務であるから、両被告は各自全部給付義務を負うものである。

よつて原告等の請求は右認定の限度に於てこれを認容し、その余の請求は棄却するものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書第九三条第一項但書を、仮執行の宣言については同法第一九六条第一項を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 前田覚郎)

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